欧米のバイオスティミュラントの状況について(標準化など)


 
日本バイオスティミュラント協議会
技術委員 和田 哲夫

 
緒言 
近年EUでのバイオスティミュラント(以下一部で、BSと表記します)への関心は高まる一方である。これはEUにおける化学農薬の登録が困難になってきたことも一因と考えられる。
そのため欧米では下記のような会議、シンポジウムなどが多く開催されており、ひとつの新しいカテゴリーの製品群が農業関連市場において突然誕生したような盛況さである。
もちろんそれら製品の多くは以前から販売されてきているものであることは特筆するべきであろう。
それらシンポジウムの開催例を挙げる。まだ三回程度の開催から鑑みるにBSのシンポジウムは近年の傾向といえる。日本も数年しか遅れをとっていないということである。
 
米国での開催例および今後の予定(BPIA 生物剤工業会 などが主導している)
2018年6月  米国バイオスティミュラントサミット 開催地 イリノイ州シカゴ
 
2018年7月  アグリビジネス ビオスティミュラントコマース 同 アリゾナ州
         フェニックス  
 
2018年10月 第三回 バイオコントロール・バイオスティミュラント・マイクロバイ
         オーム パートナー会議  同 ペンシルバニア州フィラデルフィア 
 
ヨーロッパでの開催例と今後の予定 
EBIC (ヨーロッパBS協議会 56社加入)が中心 
2018年4月 EBIC バイオスティミュラント標準化会議  山東省臨沂市、 中国
         (中国語ではBSは生物刺激素と表現されている) 
2018年6月 アグリバイオスティミュラント会議 ミラノ イタリア
        バイオスティミュラント ヨーロッパ バレンシア スペイン 
2019年1月 バイオスティミュラント ヨーロッパ マドリード スペイン
 
1.EUでのBSの標準化について? 
 BSの品質向上などのために標準化、規格化の動きがあるが、まだ成立までは
 時間がかかるようである。
 
 標準化に必要な項目は以下のとおり。 
 微生物を含むBS製品の効果の確認・検証をすべき項目は以下の通り。 
 ●  サンプリング方法、
 ●  ネーミング(呼称)
 ● 安全性を含むスペシフィケイション(スペック、規格)
 ● ラベル
 ● 効果試験方法 
 
2.EUでのバイオスティミュラントの種類
 ◎ 幅広い製品と種類 
 ● たんぱく質、ペプチド、アミノ酸、それらの修飾物質
 ● 有機・鉱物性物質
 ● 天然物(植物抽出物、海草など)
 ● 微生物(バクテリア、糸状菌など)
 
BSのメリット
 ◎ 肥効の改善
 1.栄養分の効率的摂取を促進
 2.環境中への栄養分の放出の削減
 3.肥料の投下における生産者のROIの改善
 
◎ 品質の改善
 1.農家収入の改善
 2.少量の投入で必要な技術レベルにミートする(農薬や肥料の多投入の改善)
 
◎ 植物の生育状態改善
 非生物的ストレスへの耐性を向上させる(水ストレス、温度ストレス、霜ストレス等)  
 
3.EU BS 市場について 
◎ 急成長している市場である 
 ● 年間成長率が +10-12
 ● ヨーロッパBS協議会のメンバー会員会社はR&Dに売り上げ金額の3~110%の
   投資をしている。(肥料業界では少ないという意味)
 ● ヨーロッパでのBSの製造会社は200以上。
 ● 65%のBSの会社は小規模から中規模の会社。
 ● 75%のBS会社は農村地帯か、小都市に存在。
 
4.EUの法令 
 ● EUの第28肥料法はきわめて統一性がとれていない。
 ● すなわち、BSの定義と認識が確立されていない。
 ●  例えば、フランスでは、BSという単語が使われているが、それは
  「ほとんど問題とならない天然の物質」という植物保護製品にリンクする部分であり、
   混乱している状況。
 ● EU各国間での相互承認(他国の法令を認可すること)のシステムが複雑すぎて機能
   していない。
 

5.EUでBSを登録するには、メンバー各国の法令に従う必要がある 
現在3つの方法がある。
 
 1. 直接投入販売 :現在ある法令に沿ってN,P,K,糖質分その他を明記した
   ラベルで市場に投入(当該官庁による評価、許可はない)
 2. 簡易評価: 簡易評価による許可 (6ヶ月以内で許可)
 3. フルドシエ評価:(6ヶ月以上)
 
 各国がどのような方式で評価しているかは、下記のとおり。
 
 ● 直接投入販売:フランス フランスのスタンダード
          ドイツ、オランダ、UK  肥料法に準拠
 ● 簡易評価方式 オーストリア、ベルギー、ドイツ(植物強化剤)
 ● フルドシエ方式 ギリシャ、ポーランド、ハンガリー、フランスでのMFSC製品
  (MFSCとは” (Matières fertilisantes et supports de culture) 肥料および栽培に
   必要な製品など)
 
フルドシエの場合、要求される主要なドシエ類 
 ● 成分証明書 分析証明書 MSDS
 ● ラベル ほかのEU各国での登録証(あれば)
 
 以上は多くの国で要求されている。
 若干数の国が以下を要求しているが、大勢ではない。
 
 ● 作用機作と農業利用の目的
 ● CLP分類と説明(Classification, Labelling and Packaging)
 ● バッチ分析
 ● シェルフライフ試験(安定性試験)
 ● 毒性試験・環境毒性試験
 ● 効果試験(EUのどの国のものでも良い)
 ● 国内での効果試験
 ● サンプルとヨーロッパ国内での分析試験
 ● リスク評価書 
    
6.BSの種類による各国登録について    
 以下の順番で、上から下に行くほど登録は難しくなる
 
 ◇ 天然物起源のBS(植物抽出物、アミノ酸、海草など)
 ◇ 有機物と肥料成分によるBS
 ◇ 微生物が主成分であるBS
 ◇ 特殊な革新的な物質であるBS
                                          
7.米国でのBSの表記 
  米国での肥料登録は州登録であり、比較的簡単に取得できる。
  BS製品は、肥料登録をとっているものと、とっていないものがある。
  
米国でのBS製品の一例 具体的なメリットを表示 
 ● 根の生育を増大させる
 ● 土壌の粒子をまとめる多糖類
 ● 菌根菌の活性化
 ● ミミズの増加とそのトンネルの増加
 
概説的も表示は可能 
 ● 収量の増加と収入のアップ
 ● 品質の向上
 ● 窒素肥料の削減 窒素利用の効率化
 ● 発芽と成熟の促進
 ● 土壌構造・フィルターの改善
 
 
参考:米国で登録されている生物農薬:植物抽出物および天然物の起源、用途および登録年
(バイオペスティサイド)
(バイオスティミュラントではないが比較的簡易に登録取得が可能)
 

物質名

起源および用途

登録年

 Capsaicin

 トウガラシ/忌避剤

1946

 Castor oil

 ひまし油/忌避剤

1994

 Cedar wood oil

 ビャクシン/イガなどの忌避剤

1998

 Chenopodium

 アリタソウ(アカザ科)/殺虫殺ダニ剤(非食用)

2008

 Chitin

 センチュウ剤

1988

 Chitosan

 甲殻類/センチュウ剤

1986

 Cotton seed oil

 綿実

1982

 Coyote Urine

 コヨーテ/忌避剤

2006

 Farnesol

 食添/ダニのカイロモン

1987

 Fish oil

 魚油

1987

 Formic acid

 ヴァロアマイト対策

1999

 Fox urine

 キツネ/忌避剤

2007

 GABA

 植物成長調節剤

1997

 Garlic oil

 ニンニク

1980

 Bergamot oil

 ベルガモ

1972

 Oil of black pepper

 黒胡椒

2004

 Oil of Geranium

 ゼラニウム

1989

 Mustard oil and Allyl Isocyante

 カラシ/犬猫の忌避剤

1972

 Oil of Orange

 不明

1972

 Oil of Thyme

 不明

2004

 Oregano oil

 不明

2011

 Red Pepper

 不明

1996

 Refined oil of Nepeta cataria

 イヌハッカ/昆虫忌避剤

2008

 Sesame oil

 殺虫殺ダニ剤

1988

 Sesame plant, ground

 不明

2000

 Soybean oil

 不明

2000

 Sucrose

 不明

2007

 Sucrose octanoate

 ミツバチのヴァロアマイト用

2002

 Tagetes oil

 不明

2012

 Tea tree oil

 殺菌剤

2014

 Thyme herbs

 不明

2000

 Xantine

 不明

1999

 Yeast

 発酵/バクテリア剤、殺菌剤

2009


 
最後に  
再録:標準化について(EU案)
 
BSの定義
 
(抄訳)植物のBSとは植物を刺激する物質あるいは微生物である。以下の項目を達成あるいは改善することを目的とする。
 
 ● 肥培効果 (Nutrient efficacy)
 ● 土壌中の有機物質の分解 (Degradation)
 ● 非生物的ストレスへの耐性 (Abiotic)
 ● 作物の品質・形質 (Traits)
 ● 土壌中、根圏、葉面圏(Rhizosphere と Phyllosphere)
 ● 腐植化(Humification)
 
 ​除外されるもの
 農薬、肥料、石灰、土壌改良剤、培地、既にEUで標準化されている農業関連の資材
 
 まだ不透明な状況であることは、EUも米国も同様であり、規格の標準化作業が求められている状況といえる。
 

付録  バイオスティミュラントの非生物的ストレスに対する効果の概念図(和田)

 

 
 BS、生物農薬、化学農薬の相関関係(和田 黒木2018を改変)

 
 

参考文献 
黒木修一 (2018): 第2回日本生物防除協議会シンポジウム講演要旨 宮崎県での総合的作物管理の普及状況 p63-70
以上